原寮「愚か者死すべし」

日本が誇る「遅筆」推理小説家・原寮が、例によって約10年ぶりに刊行した長編。相変わらず全編、チャンドラー節だが、今回はいささかトーンダウンである。

従来の原寮の良さは、物語の中での「時間の流れ」が極めて連続的なことにあった。師匠そのものの練りに練ったろう一言も彼ならではなのだが、個人的には安易に場面を飛ばさないところが原寮の原寮たるゆえんだった。用が済んだらとっとと章を終わらせて、強引に3日後に飛ばすとか、それが当たり前だからね、推理小説は。ところがどっこい、これはまったくもって楽な方法。だから、やたらと新作を書き飛ばす輩は平然とこれをする。けれど読んでるこっちは、3日間は何をやってたんだ?と思うわけで、ご大層に「何事もなく3日が過ぎた」みたいなことを読まされる、と。

ハッキリ言って、それは不愉快なんだよね。次から次へと物事が起こっても、そこにリアリティがあるから面白いのであって、まるでトレンディドラマだよ。そういう楽をしないところが原寮の良さだと思っていたのだが、今回は明らかにそこを諦めた感がある。プロットは彼にしては複雑なんだけど、書き込みが少ないから、どうにもリアリティがない。もう一手間二手間かければ(つまり1章、2章あれば)騙されるのに、そそくさと次へと進んでしまう。

あとがきで、より良い作品をより短時間で書く方法・・・とか言ってたけど、つまりはそういうことだと思う。書き込みが少ないから、ページも少ない。だから、登場人物も今ひとつ魅力がない。もう少し沢崎とのやりとり、あるいは第三者による人物評があればなあ・・・と思わされる。

しかしまあ、なんだかんだ言っても凡百の作家より面白いわけで、早く新作が読みたいのは言うまでもない。この方向性が良いかどうかは、今後の作品次第かな。

愚か者死すべし

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この記事へのコメント

2005年06月27日 09:54
たしかに旧来彼の作品を読んできたものからすると違和感を拭えないところがありますね。藤原伊織の最新作『シリウスの道』もイメージとはかなり違っていました。読者層を新規開拓する必要はあるのでしょう。

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