ファンハールのオランダはゼロバック

 久しぶりに見たオランダ代表の姿には驚いた。最終ラインには5人の選手が並んでおり、まるで90年代前半にタイムスリップしたかと思うほどにその位置は高い。しかも、中央にいるセンターバックは相手選手を追いかけて平然とラインを離れていく。その動きはまるでボランチの選手であり、5バックというよりもこれはゼロバックなのだと理解する。
(グループB・第1節 スペイン1ー5オランダ)


 そもそもオランダのファンハール監督は、机上の理論を実践に移す稀有な存在だ。アヤックスでは果敢な3バックで欧州チャンピオンになり、バルセロナではイタリアから失意の帰還を果たしたメンディエタに対し、サイドハーフとサイドバックの二役を任せるという驚愕の戦術(3・5バック?)にチャレンジして失敗した。時に独善的とされ、敵も多いわけだが、こういう理想家こそがサッカーを面白くするのだと思う。
 前半25分にスペインが得たPKは、ある意味で必然だ。あの守り方はどうしたって裏を狙われる。ただ、守備が破綻したというより、オランダのフラールはあえてコンタクトに行かなかったように見えた。実際に味方はすでにカバーに来ていたし、むしろシュートコースがなくなったと判断したジエゴ・コスタコスタが、わざと倒れたという印象を持った。
 前半42分には、イニエスタに同じような場面を演出されるが、これはシルバが枠を外す。このままスペインのペースで試合が進むようにも思われたが、直後の43分には同じことをオランダがよりダイナミックにやり返した。センターラインをわずかに超えた位置にいた左サイドバックのブリントが、ラインの裏をうかがうファン・ペルシーを狙ってクロスを放り込む。まんまとセルヒオ・ラモスを置き去りにしたエースは、トラップすることなくGKカシージャスの頭上を超えるヘディングシュートを決めた。ゴール後はベンチに駆け寄り、「俺達はこれを狙ってんだ!」と言わんばかりの喜びよう。
 相対的にみれば、スペインは無策との誹りを免れまい。実質的にとどめとなった3失点目は気の毒だったが、後半7分のロッベンの逆転ゴールもまんまとやられたものだ。ボール支配率で勝ったといっても、賞賛に値する攻撃力を示せたわけではない。そもそも彼らは過大評価されていると思うし、前回の優勝はビジャのおかけだと思う。彼らのサッカーはもちろん大好きなのだが、プレーは時に傲慢になり、ボールに食らいついていく泥臭さに欠
ける。決め手を持たないチームは、今や国際大会を勝ち上がれない。
 オランダの戦術がポゼッション重視でないのは確かだが、これを守備的だというなら「ボール支配率を上げればそれだけ失点のリスクが減る」という発想だって、十分に守備的とみなせよう。支配率100%をめざす一部の探求者以外は、無条件に胸を張ることはできまい。オランダの攻撃はワイドかつオープンで、それを実現するためにこそ、あえて5バックで自らスペースをつくっている。ゾーンでガチガチに守っているわけでは全くない。
 ポゼッション重視とはむしろ、こうした攻撃ができなくなったために復権したに過ぎない。アリゴ・サッキのミランより、アンチェロッティのミランが攻撃的だとは誰も思うまい。リードしてなお高いラインを保ったからこそ、彼らは大量得点で前回覇者を下した。

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