己を見失ったチームはマインドゲームにも勝てず

 どうして本田ではなく香川を外したのか? ザッケローニがめざしてきたサッカーからすれば、先発させるべきはプレースピードで勝る香川だったはずだ。もうあとがない一戦で「自分たちのサッカー」がしたかったのなら、遠藤を先発させなかった理由もよくわからない。まるで後半のみに勝負を賭けたかのようなチョイスはしかし、相手が退場処分で10人になるに至って不発に終わってしまったのかもしれない。あくまで好意的に考えればだが……(グループC・第2節 日本0ー0ギリシャ)。



 大久保をスタメンで出したのは理解できた。90分間を守備に徹し切れるのがギリシャであり、それを突き崩すのに彼の意外性や強引さに期待を寄せるのはよくわかった。実際、自信にあふれたJリーグ得点王は、決して悪くないプレーを見せてくれたと思う。
 だが、香川を下げて遠藤までもベンチに置いたのは、まったく納得がいかなかった。ザッケローニがめざしてきたのは、プレッシングからの速攻だったはずであり、ここに来て本田や長谷部に固執するのはわからない。ギリシャ相手にゴールを狙うのであれば、ドリブルにせよパスにせよ、ボールを速く動かせる選手を使うべきだったと思う。

 今に始まったことでは全くないが、本田のプレーはスピードを欠いている。単に足が速くないというだけではなく、致命的に判断が遅い。自らシュートに行こうとするとき以外は、ボールを足元に置いてから何をするかを考えているように見えてならない。ミランの試合でもそうだし、コートジボワール戦においても彼から効果的なパスが出たシーンはほぼなかったと思う。
 むろん、ザッケローニが本田を中央に配置する意図が想像できないわけじゃない。前線で起点になれる1トップを見いだせなかった以上、ボールが収まる場所が他に必要だったということだろう。ただ、結果としてそこからボールが回らないのだとしたら、チームの攻撃は機能しなくなってしまう。ろくに前も向けず、ファウルすらもらえない選手を、あえてトップ下に置く意味はわからなかった。

 前半38分のカツラニスの退場処分が、試合を難しくしたのは事実だろう。ギリシャのプレーぶりからは、確かに「ここを引き分けても良い」という開き直りが感じられた。日本が最終節でコロンビアに負けると考えた彼らには、慌てる理由がなかったともいえる。彼らはコロンビアの強さを身を持って知っていたし、自分たちと日本の得失点差を踏まえれば、「引き分けてコートジボワールに勝てばいいだけ」と腹を括るのは簡単だったのかもしれない。
 その意味で、日本はマインドゲームに負けたことになるのだと思う。11人対10人という明らかに優位な状況にありながら、日本は性急にゴールを求めているように見えた。むしろ楽観的に、「一人少ない相手から45分で1ゴールを挙げればいいだけ」と考えた方がはるかに良いプレーができただろう。あるいは逆に、ギリシャのタフなメンタルを正確に理解しておくべきだったのかもしれない。言うまでもなく彼らは、果敢に攻めることもなく欧州王者になったという大きな経験を持っている。

 もうひとつ気になっているのが、彼らが繰り返す「自分たちのサッカー」という言葉だ。コートジボワールに敗れた後、選手たちは判で押したように同じ意味の言葉を使った。しかし、タイムや距離を争う個人競技ならともかく、サッカーというスポーツに対して求められるのは、基本的にベストを尽くすことではなく勝利だろう。
 「自分たちのサッカー」をすれば、日本はコートジボワールやギリシャにだって当然に勝てたのだろうか。ブラジルやドイツの選手が言うのならまだわかるが、いつから日本はそんなに強くなったのだろう。率直に言えば彼らの言う「自分たちのサッカー」がどんなものか今ひとつわからないし、それがW杯で優勝できるサッカーだとも思えない。
 サッカーは瞬時の判断力が問われる競技であり、自信が判断を左右するのは確かだ。ただ、同時に「敵を知り己を知れば~」が当てはまるのも間違いない。少なくともギリシャ戦は、相手へのリスペクトを欠いて試合に臨み、思い通りにプレーできないまま自滅した感は否めない。

 数少ない決定機をみても明らかなように、日本には1つや2つのプレーでゴールを生む力はない。大久保のシュートや内田のシュートが枠をそれたのを見て、「決定力がない」と断じている限り永遠に強豪国になどなれないと思う。直前のプレーをつぶさに見ていけば、二人のプレーはむしろ賞賛に値したはずだ。少なくとも彼らは、フリーでもらったパスをインサイドで止め、利き足を振り抜いたわけじゃない。日本に必要なのはボールに喰らいつき、届かない脚を伸ばすプレーであり、かつてのゴン中山や鈴木のゴールだってそうして生まれたはずだ。
 しかし、残念ながら日本の攻撃はチームとして機能していなかったし、数少ない連携プレーも精度を欠いた。攻め急ぐばかりで緩急はなく、相手に脅威を与えることはできなかったと思う。
 コートジボワール戦の記事でも触れたように、本田を下げることを望んでいたのだが、ザッケローニの判断は全く違った。ここで彼を下げて目を覚まさせ、コロンビア戦で勝負を賭けるのもありだと思ったのだが……。とはいえ、「自分たちのサッカー」を見失った日本が、元欧州王者にマインドゲームで勝てるはずなかったのかもしれない。

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