チリのポリシーはすべての競り合いに勝つこと


 強豪を自称する国々にとって、チリのサッカーは全くナンセンスだ。全員で攻め続け、守り続けるサッカーは、論理的に考えればリスクが高過ぎる。強者であればあるほど採用し難い戦術はしかし、前回王者のスペインを下し、王国ブラジルをPK戦まで追い込んだ(決勝トーナメント1回戦 ブラジル1ー1チリ)。



 チリのサッカーは、机上の空論を実現しようとする無茶なサッカーだ。90分間、すべての場面で主導権を握ろうとして、ボールを持てば前をめざし、奪われればすぐさま相手にプレーをさせないように食らいつく。いわゆるポゼッション・サッカーと根本的に異なるのは、彼らが「ボールを持たされること」を潔しとしない点だろう。チリのサッカーはいつだって攻め急ぎ、そういってよければいつだって守り急いでいる。
 スタミナの面からも、そしてリスクマネジメントの面からも困難な戦術を現実にしているのは、競り合いに負けないという極めて単純な要素だ。「奪われたボールは、直ちに奪い返せば良い」。技術や体格面で差があることを十分承知したうえで彼らは、球際で負けないスタイルを徹底している。明らかに身長差のあるブラジル人選手とロングボールを競り合って勝てるのは、そのことを最優先しているからに他ならない。
 しかし、開き直りともいえるその発想があるからこそ、彼らはボールを失うことを恐れない。無茶で強引な攻撃を仕掛けるのも、あるいは、自陣でダイレクトにショートパスをつなげるのも、球際の競り合いに絶対の自信を持っているからだ。カウンターに特化し、競り合い自体を無効化しようとするオランダに屈したのも、そう考えればよくわかる(その昔、全員がダービッツみたいだったら……と夢想したことがあるのだが、チリのサッカーはそれに近いと思う)

 開催国ブラジルを相手にしても、チリの姿勢は基本的に変わらなかった。後半こそ明らかに足が止まってしまったが、ブラジルの方がそれ以上に疲弊していたのは間違いないし、彼らがいかにネイマール頼みであるかを改めて露呈させた。
 実際、今大会のブラジルは全くらしくない。連携プレーはほとんどみられず、ネイマールの個人技で勝ち点を稼いでいる。「守備者としては三流」のダニエウ・アウベスはほとんど攻撃に絡めていないし、一方で重戦車のようなフッキをウイングとして重用して憚らない。堅実なスコラーリ監督らしいといえばその通りなのだろうが、サッカー王国として期待されている姿を見せているとはとても言えないだろう。そもそもクロアチアに手を焼くのはわかるが、メキシコやチリはむしろ与し易い相手だったはずだ。

 ビダルの調子が万全でなかったことは悔やまれる。率直に言って彼らの攻撃は、ビダルやサンチェスがいなければブラジルには通用していなかったから。序盤には弱気になってロングボールを放り込む場面もあったが、これを修正したのは彼らだったと思う。右サイドで囲まれて踏ん張るビダルを見て、やはり頼りになるアタッカーが2、3人いなければ「攻撃的なサッカー」なんてできないのだ、とも考えた。試合がPK戦までもつれたのも結局、ブラジルが後半以降バテたのが大きかったと思う。
 ただ、一方でブラジルが勝利に値したと言い切れる人間も多くはないはず。主語をジュリオ・セザールに置き換えれば別だが、これがネイマールでも微妙だし、他の選手ならなおさらだろう。綱渡りの戦術で果敢に挑むチリを相手にして、ブラジルはしぶとく勝つことしかできなかったのだと言いたい。
 20年前のW杯決勝の後にも同じことを書いたが、「PK戦はサッカーじゃない」。そして、4年前にも同じように感じたけれど、もっとチリを見たかった。

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